日々の泡を綴る うたかたの光を撮る


by bbking1031
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カテゴリ:お話( 8 )

ティーバック

「お茶にする?」
「うん」
「コーヒーならあんた淹れてよね」
「紅茶でいいよ」
「ティーバックだけど」
「Tバック?」
「いい?」
「ああ、いいとも。
あのTバック見せてくれる?」
「いいわよ」
「うっ、すっげー、セクシー」
「そうかな」
「触ってもいい?」
「ん?」
「いい匂い」
「ティーバックは香りも命よね」
「ホントそーだね」
「わたしもティーバックにしよっと」
「きみのTバック素敵だね」
「あなたのと同じなんだけど」
「あ、そう?」
「いっただきまーす」
「おいしいね」
「うん、ほんとおいしい」
by bbking1031 | 2010-09-04 08:11 | お話 | Comments(0)

朝の落日

海が眩しかった。
海は穏やかだった。
緩い坂道を登りながら浅瀬の緑がかった水を眺めた。
坂の途中に親戚の家がある。
「ぼくが小夜おばさんを病院に連れていくからね。
あなたのところは子どもも小さいし。」
六歳になる子どもは父親と磯で遊んでいた。
「ごめんなさいね。」と蓮江さんがいった。
「お茶でも飲んでいけば。」
「直ぐいったほうがいいからね。」
小夜おばさんの家は半島の突端だから、どうやっていこうかな。
坂を降りて、従弟とその幼子に、
「小夜叔母のところにいってくるよ。」
「ああ、すまないね。」
子どもの頬が不思議なくらい白かった。
あまり家から出さないのだな。
坂の下に駅があった。
階段を上ると行き止まりになっていて、電車の屋根が見える。
フェンスを乗り越えて電車の屋根に登ってみた。
すると電車は動き出した。
ぼくは必死に屋根にしがみついた。
鉄と油と埃の強い匂いが濃くなった。
電車はスピードを上げた。
カーブを描きながら海を渡った。
モノレールであることに気づいた。
海を渡りきったところで、車内に体を滑り込ませた。
小さな車両に大きなソファーがいくつか置いてあった。
車内のほとんどの席を悪そうな高校生が占領していたが、辛うじて座ることができた。
ぼくはいつのまにかスーツに着替えていた。
賑やかな町をいくつか過ぎて、お昼前には仙台についた。
モノレールの駅が今にも崩れそうな木造の駅舎なのが気に入った。
タクシーを拾おうとするのだが、駅前は大渋滞でタクシーも空車がない。
1970年代のアメ車が多い。
ダッチとかシボレーとか。
変わった町だ。

道路傍のベンチに見知らぬ男二人と座っていた。
道路を挟んで郵便ポストがある。
やがて郵便局の赤い車がきて、ぼくらに直接荷物を渡す。
ぼくに渡されたのは大きな封筒が三通と小包。
「それなに? 開けてみてよ。」
なんだか失礼なやつだなと思いながら、開けてみると、
「シャネルの香水セットみたいだね。」
ぼくにどうしろというんだろう?
「もう商談の時間だ。」
ぼくは小荷物をベンチにそのまま置いて、資生堂に向かった。
すぐ近くだし、何度もきているのに場所を見失った。
おまけに用件さえ忘れた。
慌てて手帳を見る。
手帳には知り合いの誕生日しか書いてない。
街に急に日が落ちた。

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by bbking1031 | 2010-01-07 10:04 | お話 | Comments(0)

駐車場にて

「あれ、車どこに停めたっけかなあ。」
「あっちじゃねーの?」
「ちげーよ、向こうじゃんか、バカ。」
「バカってゆーなよ、バカ。」
「じゃあバカ女。」
「バカ男。」
「ぜってー向こうだよ、バカ女。」
「ちげーよ、あっちに決まってんじゃん、バカ男。」
「じゃあオメエはあっちいきゃーいいじゃん。」
「アンタ、なんできたんだよ。」
「マフラーぶっといワゴンRに決まってんじゃん。
おめーは?」
「マフラーちょーぶっといオデッセィだろ、ヴォゲッ。」
「じゃーな、バカ女。
家で会おうぜ。
カレー作っとけよ。
バーモンドカレーな。
辛くすんじゃねーぞ。
オレ辛いのムリだかんな。」
「バーカ、アメーんだよ、バカ男。
帰ったら風呂沸かせよ。
アチシが先だかんね。
オメーの後は風呂くっさいし。」
「バーカ、いっしょに入りゃいいじゃん。
節約できるし。
背中洗わせろよな。」
「オメーもな。」
「じゃーな。」
「バイビー。」
by bbking1031 | 2009-05-24 22:32 | お話 | Comments(0)

「おかあさん、これ買ってよ。
ビーフジャーキー。」
「はあ?」
「ねえねえ、買ってよ買ってよ。
欲しい欲しい。
ジャーキージャーキー、ジャーキー欲しーい!」
「これ、ドッグフードじゃん。」
「いいのいいの、ジャーキージャーキージャーキー!」
「あんた犬なの?」
「ワン。」
「これください。」
「いらっしゃいませ。
こちらにお連れになってるのは、お犬さまですか?」
「ワン。」
「はい、どーぞ。」
「いくわよ、ポチ。」
「ワンワン。」
by bbking1031 | 2009-05-24 22:30 | お話 | Comments(0)

パソコン

大学1年生にレポートを書かせるんだが、受験勉強ばかりやってきたんだろう、まともにワードも使えない。
「どうすればいいんですか?」
「ワード立ち上げて。
そうそう、そのアイコンね。
後は自分で書いといてね。」
しばらくして、
「書いたんですけど、画面がスクロールしないんですけど。」
「ホントだ。
フリーズしたのかなあ。
てか、なんで書いたの?」
「鉛筆では無理だったので、マジックで。」
「ディスプレーに?」
「ペンで書くとワープロの文字に変換してくれるんじゃないんですか?」
「無理だと思うよ。」
「このパソコン、安物なんですね。」
「そうかもしれないね。
……ちょっと待っててくれるかな。
ピストル取ってくるから。」
「はーい。」
by bbking1031 | 2008-04-25 23:07 | お話 | Comments(2)

湯呑型携帯電話

ぼくは薄っぺらな携帯電話を使っている。
「ずいぶん薄いですね。
頭のことじゃないですよ。」
「そうそう、昔は分厚かったですよ。
胸ポケットに入らないくらい。
ぼくのほかにはだれも携帯持ってなかったから、だれからも電話かかってこない。
電話かかってこないのは今でも変わりませんけどね。
それでね、ちょっとでかい携帯が欲しくて。
寿司屋の湯呑くらいの大きさのがいいな。
そいつにお茶注いで、寿司なんぞつまんでだね。
『おやじ、今日のネタは生きがいいねえ。
いつもは疲れきったようなマグロとかなのになあ、へへへ。
おっと、電話かかってきた。
今お茶飲んでいる湯呑が携帯だってんだから便利なもんだ。
耳に当ててっと……アチチチチッ!』」
「それって、ほんとに便利なんですかぁ?」
by bbking1031 | 2008-04-25 22:51 | お話 | Comments(0)

浄土平

吹雪いていた。
私は雪原を歩いている。
理由もなく、ただ歩いている。
目的地はただひとつあるようなのだが、それがどこだか分からない。
私は何も分からない。
私は何も考えない。
私は寒さも感じない。
私は自分が誰なのかも分からない。
相変わらず吹雪いている。
私は雪原をただひたすらに歩いている。

私は白い山を登っている。
ずいぶん長く登っている。
なぜだか疲れを感じない。
いいしれぬ懐かしさと、酸を帯びたような悲しみを感じている。
私は自分が誰なのか少しずつ分かり始めていた。

峠に茶屋があった。
先客がひとりいた。
白装束の私と同じくらいの年恰好の小柄な男。
茶屋の婆には驚いた。
真っ黒な皮膚が骨に貼りついているだけの、ぎょろりとした目をした婆。
頭部には白髪が申し訳程度に残っているだけだ。
「婆さんいつくだい?」
「いくつに見える?」
小娘みたいなことをいう。
「175歳くらいか?」
婆は歯のない口でにやりと笑うと、きたない茶碗にお茶をついで差し出した。
「その倍だあね。」
茶碗の中身はお茶ではなく、ただの水だった。
「あとどのくらいだろう?」
「なあに、時間はいくらでもある。
いやあね、わしらには時間しかないだろう。
あんたたちも100歳や200歳には簡単になれる。
ここいらは季節の変化が激しいから、退屈はしない。
熊と話したり、猪と駆けっこしたり、猿と木登りしたり、雉といっしょに叫んだり、やることはいっぱいある。」
「どこまでいくんだい?」
私は男に訊ねた。
「あんたとおなじところに決まっているさ。」
茶碗の水は霧でも飲んだように正体がない。
「さあ、出かけようか。
もうここにくることはないだろう。」
男はそういって、立ち上がった。

我々は一緒に茶屋を出たが、じきにはぐれた。
山の雪はますます深く、吹雪で前後も見えなくなったが、それは何でもないような気がする。
そうだな、生まれてからずっと毎日見ていた山で暮らすのだ。
これからずっと、何年も何十年も、永遠ともいうべき時間を。
ここか。
どうやら浄土平に着いたらしい。
春になったらまたみんなに会える。
私はここで、みんなを待っていよう。
さようなら。
だが、ここに私はずっといるのだ。
いつでも会えるのだから、さびしかったら会いにくればいい。
さようなら、さようなら。
会えるのだから、さようなら。
by bbking1031 | 2008-02-15 00:51 | お話 | Comments(2)

ブス

「毒島です。」
「あなたが毒島さん?
わたし毒戸です。
よろしく。」
「よろしくお願いします。」
「わたしたちって変な苗字よね。」
「綽名とかキツイです。」
「やっぱ?
でもさあ、親しくなるにはやっぱさあ……。
『ブス』って呼んでいい?」
「ん――っ、どうしよっかなあ……。
じゃあ、あなたのこと『ドブス』って呼ばしてもらいます。」
「き、キッツイけど、まあねえ、しょうがないわね。
ところで、ブスってさあ。
暇なときなにしてんの?」
「あ? あたしのことですか?
ひとりでぼーっとしてるかなあ。
いまんとこ彼氏いないし。」
「まあね、ブスってもてないのかな。」
「ドブスはもっとたいへんですよ。」
「そうね、ドブスの人はねえ……。
ちょっとおーっ、ドブスってわたしのこと?」
「他にだれか?」
「ブスのほうがドブスって感じがするわよ。
見た目わたしのほうが勝ってる。」
「ドブスってけっこういう人なんですね。
ドブスはドブスってゆーより、ドドドブスって感じです。素で。」
by bbking1031 | 2007-12-11 00:40 | お話 | Comments(2)